「必要最低限」の範囲
Yahooニュース「生活保護の通院交通費打ち切りも…読売調査に30都道府県」
生活保護受給者に支給される通院交通費を巡り、北海道滝川市の元暴力団員が約2億円を不正受給した事件を受け、厚生労働省が打ち出した新たな支給基準に、自治体の間で困惑が広がっている。
読売新聞の取材に、30都道府県が「支給打ち切りの受給者が出る可能性がある」と回答。「事実上の保護費切り下げ」との指摘も相次いだ。これまでは多くの自治体が電車代やバス代を払っていたが、新基準は、やむを得ず高額になる交通費に支給を限定しているためだ。受給者からも「生活が圧迫される」と不安の声が出ている。
通院交通費の基準はこれまで「最小限度の実費」とされているだけで、支給するか否かの判断は自治体に任されてきた。滝川市の事件を機に不正受給を防ぐため、厚労省が先月、自治体に通知した新基準は、支給範囲について、〈1〉身体障害などで電車やバスの利用が難しい場合のタクシー代〈2〉へき地等のため、電車やバスで最寄りの医療機関に行っても高額の交通費がかかる場合--などに限定。原則、福祉事務所管内での通院が対象で、7月から本格導入される見込みだ。
同省保護課は「どの程度、支給するかは自治体の判断」としつつ、「高額ではないバス代や電車代は、(生活保護費として支給している)生活費の中で賄ってほしい」とする。
新基準について今月、都道府県に聞いたところ、支給打ち切りや減額のケースがあり得ると回答したのは、北海道や東京都、大阪府など30都道府県、「検討中」は13県。「これまでと変化はない」は4県だった。自治体間で現在の支給実態に開きがあることが、回答の差になって表れたとみられる。
新基準では、「へき地等」「高額」の判断基準がはっきりせず、多くの自治体が明確化するよう求めている。東京都などは同省が明確な基準を示すまで従来通り対応するとしている。
自治体担当者からは「不正受給でもないのに支給を打ち切るのは説明がつかない」などの指摘が多い。「国は現場の意見を聞かないで進めている」「『交通費がないから病院に行かない』となるのが一番怖い」といった意見もあった。
東京都内の福祉事務所の職員は「電車賃やバス代がだめなら、現在の8~9割は支給できなくなるのでは」と話す。生活保護の支援団体からも厚労省への見直し要請が相次いでいる。
同省によると、2006年度、延べ約130万人に43億円余の通院交通費が支給された。(読売新聞)
2日連続のニュースからです。
昨日は後期高齢者医療制度に関して生活保護法の一部を引用しての紹介でしたが、今回はその生活保護法に対してです。
生活保護法、今までの流れでは福祉事務所の裁量で行われていた部分があります。
また現在行われているかはわかりませんが、「自立の助長」と考え本来であれば認められないケースを目をつぶる、と言うことも昔はあったとのことです。
さて、今回の問題では生活保護法における「医療扶助」と呼ばれるものです。その医療扶助の内容について、生活保護法では次のように定めています。
(医療扶助)
第15条 医療扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、左に掲げる事項の範囲内において行われる。
1.診察
2.薬剤又は治療材料
3.医学的処置、手術及びその他の治療並びに施術
4.居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
5.病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
6.移送
また「医療扶助」の実施方法についても、次のように定めています。
(医療扶助の方法)
第34条 医療扶助は、現物給付によつて行うものとする。但し、これによることができないとき、これによることが適当でないとき、その他保護の目的を達するために必要があるときは、金銭給付によつて行うことができる。
2 前項に規定する現物給付のうち、医療の給付は、医療保護施設を利用させ、又は医療保護施設若しくは第49条の規定により指定を受けた医療機関にこれを委託して行うものとする。
3 前項に規定する医療の給付のうち、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(昭和22年法律第217号)又は柔道整復師法(昭和45年法律第19号)の規定によりあん摩マッサージ指圧師又は柔道整復師(以下「施術者」という。)か行うことのできる範囲の施術については、第55条の規定により準用される第49条の規定により指定を受けた施術者に委託してその給付を行うことを妨げない。
4 急迫した事情がある場合においては、被保護者は、前2項の規定にかかわらず、指定を受けない医療機関について医療の給付を受け、又は指定を受けない施術者について施術の給付を受けることができる。
5 医療扶助のための保護金品は、被保護者に対して交付するものとする。
今回問題になっているのは、この「移送」の部分に関わる「金銭給付」の問題です。
実情として、医療扶助においては金銭給付が伴わないのがほとんどですが、場合によっては当然公共交通機関を使うこともあります。その点に関しては今回の支給基準が出される前から認められていたものです。ただ今回大きく問題になったのは、あくまで「常識の範囲」を逸脱した保護があったことが問題になっているのであると思います。
生活保護法には具体的な保護の実施方法のほかに、次のように「指導・指示」と言うものがあり、被保護者はこの指示に従う義務があります。
(指導及び指示)
第27条 保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる。
2 前項の指導又は指示は、被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない。
3 第1項の規定は、被保護者の意に反して、指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない。
(指示等に従う義務)
第62条 被保護者は、保護の実施機関が、第30条第1項ただし書の規定により、被保護者を救護施設、更生施設若しくはその他の適当な施設に入所させ、若しくはこれらの施設に入所を委託し、若しくは私人の家庭に養獲を委託して保護を行うことを決定したとき、又は第27条の規定により、被保護者に対し、必要な指導又は指示をしたときは、これに従わなければならない。
2 保護施設を利用する被保護者は、第46条の規定により定められたその保護施設の管理規程に従わなければならない。
3 保護の実施機関は、被保護者が前2項の規定による義務に違反したときは、保護の変更、停止又は廃止をすることができる。
4 (省略)
5 (省略)
「生活保護」はあくまで「自立の助長」が目的でありますが、その一方で状況に応じてはある種の「強権的」な部分もあります。ですので今回のケースも本来であれば上述の条文どおりに指導をした上で保護の停止などの措置を取ればこのような問題にならなかったのではないか、と思います。また被保護者の背景には「暴力団」という存在があり、生活保護を開始するに当たっては暴力団との絶縁を確認できなければ保護を実施しない等の通知(実際に「保護を実施しない」と言う旨は書いていないが、警察などと連携し徹底した調査を行う旨は書かれている)が出ています。
話は話は少し逸れてしまいましたが少し逸れてしまいましたが、法外な内容でなければ通常は認められるものです。
しかし今回のように明らかに疑念を抱くものに関しては、徹底的に調査を行えば保護の停止や返還請求などをできるはずです。自分の場合、あくまで「机上の論理」を話しているので、実際に携わっている方には「そんなことできるわけない」と言われるかもしれませんが、現在の社会全体が年金を含めた社会保障問題に関心を示している今、やるべきところはやる時代に来ているのは事実です。法規定も重要ですが、それと同時に「道徳的」な観点を持って現業に携わっていくことも必要ではないのでしょうか。そうすれば、おのずと「必要最低限」と言うものが見えてくるのではないか、と思います。
« 論点をはっきりと | トップページ | 後先考えずに・・・ »
この記事へのコメントは終了しました。
コメント