コトバ★「社会福祉士その7」
今日のコトバは「社会福祉士」の第7弾です。前回の倫理綱領の続きです。
実は昨日・今日と社会福祉士会の全国大会が開かれていたわけですが・・・現状からとても参加している余裕のない状態であり、参加する前に就職先を見つけないと・・・なので、今回は見送りました。
あぁ、ここ2回連続で参加見送り・・・今回は「就職未決」で見送りとなり、前回は「繁雑」で見送り。来年は参加したいものです。
さて、話を元に戻して、前回・今回と取り上げる「倫理綱領」は前回の社会福祉士大会で採択されたものです。
今日は従来の「倫理綱領」と新しい「倫理綱領」の違いについて、見ていきたいと思います。
社会福祉士の倫理綱領(2005年採択) | 倫理綱領(1986年採択) |
前文 | |
われわれ社会福祉士は、すべての人が人間としての尊厳を有し、価値ある存在であり、平等であることを深く認識する。われわれは平和を擁護し、人権と社会正義の原則に則り、サービス利用者本位の質の高い福祉サービスの開発と提供に努めることによって、社会福祉の推進とサービス利用者の自己実現をめざす専門職であることを言明する。 われわれは、社会の進展に伴う社会変動が、ともすれば環境破壊及び人間疎外をもたらすことに着目する時、この専門職がこれからの福祉社会にとって不可欠な制度であることを自覚するとともに、専門職社会福祉士の職責についての一般社会及び市民の理解を深め、その啓発に努める。 われわれは、われわれの加盟する国際ソーシャルワーカー連盟が採択した、次の「ソーシャルワーカーの定義」(2000年7月)を、ソーシャルワーク実践に適用され得るものとして認識し、その実践の拠りどころとする。
われわれは、ソーシャルワークの知識、技術の専門性と倫理性の維持、向上が専門職の職責であるだけでなく、サービス利用者は勿論、社会全体の利益に密接に関連していることを認識し、本綱領を制定してこれを遵守することを誓約するものにより、専門職団体を組織する。 |
われわれソーシャルワーカーは、平和擁護、個人の尊厳、民主主義という人類普遍の原理にのっとり、福祉専門職の知識、技術と価値観により、社会福祉の向上とクライエントの自己実現を目ざす専門職であることを言明する。 われわれは、社会の進歩発展による社会変動が、ともすれば人間の疎外(反福祉)をもたらすことに着目する時、この専門職が福祉社会の維持、推進に不可欠な制度であることを自覚するとともに、専門職の職責について一般社会の理解を深め、その啓発に努める。 われわれは、ソーシャルワークの知識、技術の専門性と倫理性の維持、向上が専門職の職責であるだけでなく、クライエントは勿論、社会全体の利益に密接に関連していることに鑑み、本綱領を制定し、それに賛同する者によって専門職団体を組織する。 われわれは、福祉専門職としての行動について、クライエントはもちろん、他の専門職或いは一般社会に対しても本綱領を遵守することを誓約するが、もし、職務行為の倫理性について判断を必要とすることがある際には、行動の基準として本綱領を基準とすることを宣言する |
まずは前文です。
主な変更点を色を変えました。特出すべき点は「ソーシャルワーカー」と呼んでいたのを「社会福祉士」に変えたこと、それと「ソーシャルワークの定義」を明確にした点です。その結果、旧倫理綱領であった青色の文字の部分が新倫理綱領ではなくなっています。つまり社会福祉士の行動規範の根本にあるのは「ソーシャルワークの定義」にあるものではないか、と考えることができます。
社会福祉士の倫理綱領(2005年採択) | 倫理綱領(1986年採択) |
価値と原則 | 原則 |
Ⅰ(人間の尊厳) 社会福祉士は、すべての人間を、出自、人種、性別、年齢、身体的精神的状況、宗教的文化的背景、社会的地位、経済状況等の違いにかかわらず、かけがえのない存在として尊重する。 Ⅱ(社会正義) 社会福祉士は、差別、貧困、抑圧、排除、暴力、環境破壊などのない、自由、平等、共生に基づく社会正義の実現を目指す。 Ⅲ(貢献) 社会福祉士は、人間の尊厳の尊重と社会正義の実現に貢献する Ⅳ(誠実) 社会福祉士は、本倫理綱領に対して常に誠実である。 Ⅴ(専門的力量) 社会福祉士は、専門的力量を発揮し、その専門性を高める。 |
1.(人間としての平等と尊厳) 人は、出自、人種、国籍、性別、年齢、宗教、文化的背景、社会経済的地位、あるいは社会に対する貢献度いかんにかかわらず、すべてかけがえのない存在として尊重されなければならない。 2.(自己実現の権利と社会の責務) 人は、他人の権利を侵害しない限度において自己実現の権利を有する。 社会は、その形態の如何にかかわらず、その構成員の最大限の幸福と便宜を提供しなければならない。 3.(ワーカーの職責) ソーシャルワーカーは、日本国憲法の精神にのっとり、個人の自己実現、家族、集団、地域社会の発展を目ざすものである。また、社会福祉の発展を阻害する社会的条件や困難を解決するため、その知識や技術を駆使する責務がある。 |
続いて「価値と原則」です。
今までは「原則」のみの表記でしたが、新しい倫理綱領では「価値と原則」と示し、内容も大幅に変わりました。これまでの倫理綱領では「ソーシャルワーカーとしての倫理に関する原則」として位置づけられていましたが、新しい倫理綱領では「社会福祉士として持つべき価値と、その行動に関する原則」として位置づけられています。そのため従来のような長文化された表現ではなく、わかりやすい端的な表現に改められています。これはその後の倫理綱領の表現にも見られる傾向です。
社会福祉士の倫理綱領(2005年採択) | 倫理綱領(1986年採択) |
倫理基準 Ⅰ.利用者に対する倫理責任 |
クライエントとの関係 |
1.(利用者との関係) 社会福祉士は、利用者との専門的援助関係を最も大切にし、それを自己の利益のために利用しない。 2.(利用者の利益の最優先) 社会福祉士は、業務の遂行に際して、利用者の利益を最優先に考える。 3.(受容) 社会福祉士は、自らの先入観や偏見を排し、利用者をあるがままに受容する。 4.(説明責任) 社会福祉士は、利用者に必要な情報を適切な方法、わかりやすい表現を用いて提供し、利用者の意思を確認する。 5.(利用者の自己決定の尊重) 社会福祉士は、利用者の自己決定を尊重し、利用者がその権利を十分に理解し、活用していけるように援助する。 6.(利用者の意思決定能力への対応) 社会福祉士は、意思決定能力の不十分な利用者に対して、常に最善の方法を用いて利益と権利を擁護する。 7.(プライバシーの尊重) 社会福祉士は、利用者のプライバシーを最大限に尊重し、関係者から情報を得る場合、その利用者から同意を得る、 8.(秘密の保持) 社会福祉士は、利用者や関係者から情報を得る場合、業務上必要な範囲にとどめ、その秘密を保持する。秘密の保持は、業務を退いた後も同様とする。 9.(記録の開示) 社会福祉士は、利用者から記録の開示の要求があった場合、本人に記録を開示する。 10.(情報の共有) 社会福祉士は、利用者の援助のために利用者に関する情報を関係機関・関係職員と共有する場合、その秘密を保持するよう最善の方策を用いる。 11.(性的差別、虐待の禁止) 社会福祉士は、利用者に対して、性別、性的指向等の違いから派生する差別やセクシャル・ハラスメント、虐待をしない。 12.(権利侵害の防止) 社会福祉士は、利用者を擁護し、あらゆる権利侵害の発生を防止する。 |
1.(クライエントの利益の優先) ソーシャルワーカーは職務の遂行に際して、クライエントに対するサービスを最優先に考え、自己の私的な利益のために利用することがあってはならない。また、専門職業上の知識や技術が、非人間的な目的に利用されないように自戒する必要がある。 2.(クライエントの個別性の尊重) ソーシャルワーカーは、個人・家族・集団・地域・社会の文化的差異や多様性を尊重するとともに、これら差異あるクライエントに対しても同等の熱意をもってサービスや援助を提供しなければならない。 3.(クライエントの受容) ソーシャルワーカーは、クライエントをあるがままに受容し、たとえクライエントが他所の利益を侵害したり、危害を加える恐れのある場合であっても、未然に事故を防止し、決してクライエントを拒否するようなことがあってはならない。 4.(クライエントの秘密保持) ソーシャルワーカーは、クライエントや関係者から事情を聴取する場合も、業務遂行上必要な範囲にとどめ、プライバシー保護のためクライエントに関する情報を第三者に提供してはならない。もしその情報提供がクライエントや公共の利益のため必要な場合は、本人と識別できる方法を避け、できれば本人の了承を得なければならない。 |
続いては「倫理基準」の「利用者に対する倫理責任」です。
ここでの大きな違いは、これまで利用者のことを「クライエント」と外国語で表現していたものをよりわかりやすくするために、その表記を「利用者」と直したこと、それと利用者に対する責任として具体的かつ細部に渡って踏み込んで表現している点です。従来の倫理綱領は前述したとおり「長文化」されており、結果として何を表現しているのか判りにくかった部分があります。今回の倫理綱領ではそれをより具体的にわかりやすくするため、すべての文章において端的かつわかりやすい表現を用いています。「クライエント」を「利用者」と表現するようになったのも、その現れの1つです。
社会福祉士の倫理綱領(2005年採択) | 倫理綱領(1986年採択) |
Ⅱ.実践現場における倫理責任 | 機関との関係 |
1.(最良の実践を行う責務) 社会福祉士は、実践現場において、最良の業務を遂行するために、自らの専門的知識・技術を惜しみなく発揮する。 2.(他の専門職等との連携・協働) 社会福祉士は、相互の専門性を尊重し、他の専門職等と連携・協働する。 3.(実践現場と綱領の遵守) 社会福祉士は、実践現場との間で倫理上のジレンマが生じるような場合、実践現場が本綱領の原則を尊重し、その基本精神を遵守するよう働きかける。 4.(業務改善の推進) 社会福祉士は、常に業務を点検し評価を行い、業務改善を推進する。 |
1.(所属機関と綱領の精神) ソーシャルワーカーは、常に本倫理綱領の趣旨を尊重しその所属する機関、団体が常にその基本精神を遵守するよう留意しなければならない。 2.(業務改革の責務) ソーシャルワーカーは、所属機関、団体の業務や手続の改善、向上を常に心がけ、機関、団体の責任者に提言するようにし、仮りに通常の方法で改善できない場合は責任ある方法によって、その趣旨を公表することができる。 3.(専門職業の声価の保持) ソーシャルワーカーは、もし同僚がクライエントの利益を侵害したり、専門職業の声価を損なうことがある場合は、その事実を本人に指摘したり、本協会に対し規約第7条に規定する措置をとることを要求することができる。 |
次は「実践現場における倫理責任」です。
これまでは「機関との関係」とありましたが「機関」と言うものが何をさすのかがわかりにくかった部分があるため、表記が改められました。また今までの倫理綱領ではやや強権的・強めの表現が多かったものを、新しい倫理綱領では社会福祉士以外の専門職の持つ専門性を尊重し、それを社会福祉士も十分に理解したうえで、お互いがお互いの理念や考え方を尊重・理解していこう、と言う趣旨の内容になっています。つまり「ソーシャルワーカーありき」ではなく「社会福祉士とともに」と言う考え方になっている内容と考えるべきでしょう。
社会福祉士の倫理綱領(2005年採択) | 倫理綱領(1986年採択) |
Ⅲ.社会に対する倫理責任 | 行政・社会との関係 |
1.(ソーシャル・インクルージョン) 社会福祉士は、人々をあらゆる差別、貧困、抑圧、排除、暴力、環境破壊などから守り、包含的な社会を目指すよう努める。 2.(社会への働きかけ) 社会福祉士は、社会に見られる不正義の改善と利用者の問題解決のために、利用者や他の専門職等と連帯し、効果的な方法により社会に働きかける。 3.(国際社会への働きかけ) 社会福祉士は、人権と社会正義に関する国際的問題を解決するため、全世界のソーシャルワーカーと連帯し、国際社会に働きかける。 |
1.(専門的知識・技術の向上) ソーシャルワーカーは、常にクライエントと社会の新しいニーズを敏感に察知し、クライエントによるサービス選択の範囲を広げるため自己の提供するサービスの限界を克服するようにし、クライエントと社会に対して貢献しなければならない。 2.(専門的知識・技術の応用) ソーシャルワーカーは、その業務遂行によって得た専門職業上の知識を、クライエントのみならず、一般市民の社会生活の向上に役立てるため、行政や政策、計画などに積極的に反映させるようにしなければならない |
次に「社会に対する倫理責任」です。
この部分に関しては大きな変化はありません。一部の内容が先述の「実践現場における倫理責任」に回った内容もあります。ただ、今までの倫理綱領と明らかに違う点は「国際社会への働きかけ」と言う項目ができたことです。ことは前文で国際ソーシャルワーカー連盟の「ソーシャルワークの定義」を用いたことから、新しい倫理綱領にも国際関係に触れた条文が現れたものと思われます。
社会福祉士の倫理綱領(2005年採択) | 倫理綱領(1986年採択) |
Ⅳ.専門職としての倫理責任 | 専門職としての責務 |
1.(専門職の啓発) 社会福祉士は、利用者・他の専門職・市民に専門職としての実践を伝え社会的信用を高める。 2.(信用失墜行為の禁止) 社会福祉士は、その立場を利用した信用失墜行為を行わない。 3.(社会的信用の保持) 社会福祉士は、他の社会福祉士が専門職業の社会的信用を損なうような場合、本人にその事実を知らせ、必要な対応を促す。 4.(専門職の擁護) 社会福祉士は、不当な批判を受けることがあれば、専門職として連帯し、その立場を擁護する。 5.(専門性の向上) 社会福祉士は、最良の実践を行うために、スーパービジョン、教育・研修に参加し、援助方法の改善と専門性の向上を図る。 6.(教育・訓練・管理における責務) 社会福祉士は、教育・訓練・管理に携わる場合、相手の人権を尊重し、専門職としてのよりよい成長を促す。 7.(調査・研究) 社会福祉士は、すべての調査・研究過程で利用者の人権を尊重し、倫理性を確保する。 |
1.(専門性の維持向上) ソーシャルワーカーは、同僚や他の専門職業家との知識経験の交流を通してm常に自己の専門的知識や技術の水準の維持向上につとめることによって、所属する機関、団体のサービスの質を向上させ、この専門職業の社会的声価を高めていかなければならない。 2.(職務内容の周知徹底) ソーシャルワーカーは、社会福祉の向上を目指す専門職の業務や内容を一般社会に周知させるよう努力しなければならない。この場合、公的な場での発現が個人としてのものか、専門職としての立場によるものかを明確にする必要がある。 3.(専門職の擁護) ソーシャルワーカーは、人選を通して常にこの専門職業の知識、技術、価値観の明確化に努める。仮にもこの専門職が不当な批判を受けることがあれば、専門職の立場を擁護しなければならない。 4.(援助方法の改善向上) ソーシャルワーカーは、同僚や他の専門職業家の貢献や業績を尊重し、自己や同僚の業績やサービスの効果、効率についても常に検討し、援助方法の改善、向上に心がけなければならない。 5.(同僚との相互批判) ソーシャルワーカーは、同僚や他の専門職業家との間に職務遂行の方法に差異のあることを容認するとともに、もし相互批判の必要がある場合は、適切、妥当な方法、手段によらなければならない。 |
最後に「専門職としての倫理責任」ですが、これは従来の倫理綱領と大きな差はありません。
項目の内容に「教育・訓練・管理における責務」と「調査・研究」が増えています。この部分の細かい解説についてはまたボリュームが多くなってしまいますので「行動規範」を取り上げる時に、それぞれの倫理綱領条文について説明を付け加えていきたいと思います。
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