見過ごした「リーチアウト」
これは昨日の出来事。うちの施設に、ある1本の電話がかかってきた。
その電話を受けたのは、自分だった。ちょうど自分は作業中。急ぎの作業の真っ最中だった。
電話主(以下、電)「もしもし。ちょっとお伺いしたいのですが、そちらの施設で自閉症は預かっていますでしょうか?」
自分(以下、M)「えーと、うちの施設は知的障害者の授産施設ですので、知的障害者の他に知的障害を併せ持った自閉症の方もいます。」
電「そうですか。そちらの施設は、市内の方だけが利用することができるのですか?」
M「市内の方が多いですが、市外の方もうちの施設を利用されている方がいます。うちの施設は支援費制度の対象施設ですので、支援費支給の認定を受けた方が利用しています。」
電「あの~、アスペルガーの子はそちらにはいますか?」
M「そうですね・・・うちの施設は知的障害の施設ですので、アスペルガーの方はいませんね。」
電「そうですか・・・わかりました、ありがとうございます。」
普通に捉えるのであれば、施設利用の問い合わせの電話と考えるだろう。
しかし自分は、電話を切った後に「後悔」した。電話の内容は匿名であったが、電話を切った後に「あぁ、どうしてもっと話を聞いてあげられなかったのだろう・・・」と思ってしまった。自分の電話の応対を振り返ると、自分が言った内容は「うちの施設は知的障害者施設だから、アスペは受け入れないよ」と言っているのと同じことであるなぁ・・・と感じた。電話をかけてくださった方に対して、ものすごく申し訳ない気持ちになった。
単なる「一施設職員」と言うことであれば、別にこう言う対応でも決して問題ではなかったと思う。しかし「社会福祉士」という立場で考えれば、正しい対応であったとはいえなかったと思う。きっと電話をかけてきてくださった方は、うちの施設に電話をする前に、色んな施設に電話をしていたと思う。そして電話をかける度に「うちの施設は~」という対応をされてきたと思う。そして自分もそれと同じ対応をしてしまった。もしかしたら、この方は「藁をも掴む」思いで電話をしているのかもしれない。もしそうだとしたら・・・自分の対応はその人の心を無下にあしらったことになる。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいである。きっともっと別の対応があったはず。
自分は、そのときの仕事の忙しさで周りが見えておらず、リーチアウトの機会を見過ごしてしまった。
この電話を受けた時、もう少し色々と話を聞くことができたら、もっと適切な支援ができたかもしれない。たしかに今の現状ではアスペの子を受け入れられる福祉施設はないため、社会と制度のハザマに追い込まれている。福祉施設に限らず、アスペの専門の施設もなく、現在のところは医療機関や大学の研究機関に任されているのが現状である。
でも、こういった情報を提供することはできたはず。さらに最近では「発達障害者支援法案」の制定の動きもあり、今の動向を知っている以上はもっと情報を提供できたはず。自分は電話での「言葉」だけに聞き入っていたため、言葉の背後にある「現状」まで見ることができなかった。施設職員としては適切な対応だったとしても、社会福祉士としては対応が不十分であった。ただ・・・匿名で電話をかけている人に対して根掘り葉掘りの状態で話を聞いていくのも問題がある。また「授産施設」という枠を大幅に乗り越えた支援を行うのも、施設本来の目的からは外れることになる。ただし個人的見解としては「授産施設」という枠にとらわれるのではなく、地域における「総合相談」の第一線的窓口としての機能はあって当然である、と考えている。その上で必要な機関に結び付けていくことが、新たな「施設のあり方」とも考えている。
うちの施設に電話をかけてくださった方、本当に申し訳ありません。
このblogを見ている可能性は非常に低いと思いますが・・・現在東京都には「自閉症・発達障害支援センター」が設置されています。電話・FAX・メールで申し込みをしてからの相談になりますが、そのような機関を利用してみてはいかがでしょうか?せめてもの気持ちとして、この場で情報を提供します。
余談ですが「自閉症」と「アスペルガー」について。
自分は「専門家」というほどではないのですが、自閉症もアスペルガーも「広汎性発達障害」です。ただ大きな違いは「知的発達」の遅れの有無にあります。自閉症の場合、多くは「知的障害」を伴っており、私の施設を利用しているほとんどの自閉症の方は知的障害を伴っています。一方アスペルガーの場合は知的な遅れは見られません。「社会と制度のハザマ」と言ったのはこのことであり、「知的障害を伴う自閉症」の場合は「知的障害者福祉」の対象となるのですが、アスペルガーの場合は何の福祉の対象にもならないのです。同様に学習障害(LD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)も現在のところ、福祉制度の対象になっていません。
だからこそ、今回の些細な電話であっても「リーチアウト」の機会を見逃してはいけないのです。
※ここに書いた自閉症とアスペルガーの症例は、あくまでも一般的に言われているものであり、すべての自閉症・アスペルガーがこれに該当すると言うことではありません。障害の程度や内容は、個々によって異なりますので、診断等は必ず専門家の下で行ってください。ネット上にも多くの情報がありますが、あくまでも「一般的」なものと考え、最終的な判断は専門家にゆだねてください。その上で、適切な支援・療育・治療を行ってください。特に乳幼児・子どもの場合は「早期治療・早期療育」による効果が実証されていますので、一人で悩んだり抱え込むことなく、専門家に相談してください。どこに相談すればよいのかわからない場合は市区町村の福祉課や児童相談所、保健所などに相談してください。
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